ご定年退職後の借金問題~老後の安心のために知っておきたいこと

1 はじめに

 今回は「ご定年退職後の借金問題~老後の安心のために」というテーマでお話させていただきます。

 実は、定年退職後に借金問題に直面し、生活設計に重たいものを感じていらっしゃる方が、意外と多くいらっしゃいます。

 そこで、長年のお勤めを終えられた方が抱えやすい借金問題をご紹介しつつ、解決のためのいくつかの選択肢をお伝えすることで、少しでも不安な点・疑問となる点が解消できればと考えています。

 

2 定年退職後に抱えやすい借金問題の実態

⑴ 収入の減少

 定年後の借金問題を引き起こす一番大きな要因は、やはり「収入の減少」です。現役時代と比べて収入が大幅に減少し、年金収入だけでは従前の生活費を賄いきれず、借入れをしなければならないというケースが多く見られます。

⑵ (予期せぬ)支出の増加

 ご自身の医療費や、親の介護費用、お子さんやお孫さんへの金銭的援助等で、急に物入りになってしまった、という事態も、特にこの年代に生じやすいように思います。知人の中には、ご実家の建物が老朽化してしまって、建て替えたり、取り壊したりするために退職金のほとんどを費やさざるを得なかった方もいます。

 また、よくお聞きするのは、ご定年を迎えても住宅ローンが残っている場合に、年金だけでは賄えず、借金に頼らざるを得なくなった、という方も相当数いらっしゃいます。

 こういったケースの支出は、おおよそ、長期的あるいは相当程度高額になることが多く、しかも、退職金だけでは間に合わない場合、その後は年金収入のみで生活と返済を行わなければならいため、債務問題としてより一層深刻化しやすいように思います。

 

3 解決のための選択肢

⑴ 前提:早期発見・早期対応の重要性

 借金問題は、放置すればするほど雪だるま式に大きくなり、解決が困難になったり、できても複雑で長引いたりします。

 少しでも「おかしいな」と感じたら、すぐに専門家へ相談することが大切です。弁護士などの専門家は、ご相談者の方の状況を詳しくお聞きし、法律上最善の解決策を検討します。

 

⑵ 債務整理という選択肢

 法律上取り得る選択肢は、「債務整理」です。債務整理には、主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3つの方法があります。

 

任意整理:弁護士などが、債権者と交渉し、将来の利息をカットしたり、返済期間を延ばしたりすることで、毎月の返済額を減らす手続です。年金収入で無理なく返済できる場合に適しています。

 

個人再生: 裁判所に申立てを行い、借金の額を圧縮してもらい、残った借金を原則3年間で分割して返済する手続です。住宅ローンを抱えていて、家を手放したくない場合に有効です。

 

自己破産: 裁判所に申立てを行い、借金の返済義務を免除してもらう手続です。ただし、所有している自宅など、一定の財産は処分しなければなりません。返済がどうしても困難な場合に選択されます。

 

 どの方法が最適かは、その方の収入、資産、借金の額などによって異なります。弁護士にご相談いただくことで、その方に合った方法を一緒に検討し、提案してくれます。

 債務整理を行う際には、手続の流れ、費用、信用情報への影響など、注意すべき点があります。弁護士からよく説明を受け、納得した上で手続を進められてください。

 

⑶ 生活再建のための具体策

 以上の債務整理は、あくまで借金問題を解決するための手段の一つです。生活を立て直すためには、債務整理と並行して、家計の見直しや収入を増やす努力も必要です。

 

 ここからは法的にこうしましょう、というより、これまでご相談をお受けしてきた中で「こうするのが良いのでは」という感想もふまえたご提案になるのですが、

 まずは、家計簿をつけ、無駄な支出がないか確認するのが大切だと思います。

 その上で、年金収入に見合った生活設計が必要となります。固定費(家賃、光熱費、通信費など)を見直したり、食費や娯楽費を節約したりすることで、支出を減らすことができます。

 

 また、各自治体やNPO法人などが提供する相談窓口を活用し、適切なアドバイスを受けたり、場合によっては福祉的なサポートを受けられる可能性もあります。困った時には一人で悩まず、周囲の支援を受けることをお勧めします。

 

4 おわりに

 以上、長年のお勤めを終えられた方が抱えやすい借金問題をご紹介しつつ、解決のための債務整理という選択肢や、生活再建のための具体策についてお伝えしました。

 既にご定年を迎えられた方も、これから迎える方も、今回お話ししたような予期しない支出を予期しておく、誰にでも生じ得るんだということを心にとどめ置いていただくとともに、今後の安心のためにも、まずは家計を見直していただき、積立等のご準備をしっかりと進めていただくことが大切です。

 そして繰り返しになりますが、何か問題を抱えた場合・抱えそうな場合は、できる限りお一人で悩まず、早めに各分野の専門家にご相談ください。

  

 今回もご覧いただきありがとうございました。

 

著者紹介

井上瑛子 弁護士

おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了

福岡県弁護士会所属