子供あての請求書~親として払ってやるべきか?

こんにちは弁護士の奥田です。今日は子供あての請求書が来たとき、親として払ってやるべきかということについてお話をしたいと思います。

これは時々私のところの法律事務所でもある相談の一つです。どういう事例かというと、ご自宅に音信不通の息子さん宛の請求書、しばらく連絡が取れなくなっている息子さん宛の請求書が届きました。この請求書を開けてみると、請求してるのはカード会社とかあるいは債権回収会社とかそういうところの弁護士とかからの請求書だった。内容を見ると、「何日以内にお支払いいただけないときは法的措置を取ります」といったような、すごく物騒なことが書いてある。こういうものを見た親御さんは大変心配をされるわけですし、どうしたらいいだろう、やはり親として支払ってあげるべきなんじゃないか、というご相談があります。

まずこういうご相談に対するとりあえずの答えとしては、親としては支払うべきではないということになると思います。

なぜかというと、まず大原則として、子供の借金あるいは負債については親に支払い義務というのは一切ないということになります。子供と親というのはあくまでも別人格ですから、子供がいかに借金を負おうと、親が責任を負うということは基本的にはないわけですね。

 

このことはご存知の方も多いかと思いますけれども、子供の借金といっても親に責任は一切ないんだということは押さえておく必要があるかと思います。親に責任はないということですね。

それから次、子供の借金・負債であれば子供には責任があるんですけれども、この子供自身で取りうる様々な解決方法もあるわけですね。

 

まず一つは、昔の借金だったりすると、消滅時効の援用という、もう時効で消えてなくなってますよという主張をする方法が一つあります。

それから、任意整理という方法ですね。これは例えば借金が全部で300万あるんだけれども、弁護士とかが交渉して、何とか減額してもらって分割払いで払うとかそういう方法。

あるいは個人再生、それからどうしてものときは自己破産という方法もあります。

 

こういった方法を使えば、子供自身が借金の整理というか負債の整理ということが十分可能です。特に個人再生や自己破産では、債務者自身、今回で言えばお子さん自身の支払能力・財産を超えた分については免れる、支払わなくて済むという法的な制度がきちんと用意されています。それが個人再生であり自己破産であるわけです。ですので、子供自身で手に負えない負債というのは理屈上なかなか考えにくいということも言えるかと思います。ですので、親が支払ってあげるということはすべきではない、というふうに考えられます。

 

それから逆に親が支払ってあげるとどうなるかということですけれども、まずは請求している債権者としては満足だと喜びますけれども、しかしこの借金を親が払うことによって、またお子さんはどこかから借り入れができてしまうということになります。つまり、お子さんにお金を貸したりする業者は返ってくるから貸すわけです。親が返していると、また次貸すんですよね。そうすると、またお子さんは親にも連絡を取らないまま、どこかでカードを使ってどんどん借金してしまったりとかいうことができてしまって、ますます連絡をよこさなくなるといったようなことが考えられるかなと思います。

 

それから今回の請求書でこのお子さんの借金が全てだという保証は何もないわけですね。例えば今回50万の請求書が来てますけれども、他にも請求書が来ていない借金がたくさんあって、全部で500万あるとか、1000万あるとかいう場合に、このたまたま自宅に来た50万を返したからといって、これは氷山の一角で何も解決になってないというケースも十分あり得ます。

必ず実家に請求書が来るかというと必ずしもそうでもないわけですから、請求書が来てない部分も十分ありうるということは、考えておく必要はあると思います。

 

それから3番目ですね、一部でも支払ってしまうと、例えば今回の請求書に書いてある金額は50万なんですけれども、お父さんが心配して請求書の連絡先に電話をしてみると、今回とりあえず2万円だけ払ってくださいとか言われて、とりあえず2万円払いましたといったようなケースのときに、一部でも負債を支払ってしまうと、全体の債務を承認したということになって、その後消滅時効の主張ができなくなるという可能性が生じてしまうわけですね。

 

1円も払わずに、「時効だ」と言えばよかったんだけれども、一部でも下手に払ってしまったがために、その後の消滅時効の主張が一切できなくなるといったようなリスクも生じてきます。ですので、支払うということはあまりメリットがないし、逆に3番(消滅時効の主張ができなくなる可能性)なんかは大きなデメリットになりうるということ、これは頭に入れておく必要があると思います。

 

ですので最終的な結論としては、そういう請求書を見たときに、当然親ですから心配になるのは当たり前のことだと思います。そのときまず最初にやるべきこと。さっき言ったように、相手に連絡をしてみても、相手は請求側の人ですから、それは払ってもらいたいというのは役目上当然のお話ですので、「いや、もう時効を言ってもらったらいいですよ」とか、そういうことは通常は言わないんだろうと思います。

 

やはり相手に連絡しちゃうと、もう裁判をしますよとか、払わないと大変なことになりますといったような、かえって不安になる可能性があると思いますので、相手への連絡よりも先に、信頼できる弁護士などの専門家にご相談いただくというのがいいと思います。私どものところにもこの手の相談が時々来ますけれども、多くの場合、ほぼ100%と言ってもいいと思いますが、お子さんと連絡が取れてからゆっくり対処を考えても十分間に合うケースがほとんどだというのが私の実感です。

 

ですのでこういった息子さん宛の請求書がご実家に来たといったような場合には、ぜひ弁護士などの専門家にまず相談をされることをおすすめします。

今日のお話は以上です。

 

著者紹介

奥田貫介 弁護士

おくだ総合法律事務所 所長

司法修習50期 福岡県弁護士会所属

福岡県立修猷館高校卒

京都大学法学部卒