会社役員の方が自己破産する場合の留意点

1 はじめに

 今回の動画では、「会社役員の方が自己破産する場合の留意点」について、お話したいと思います。

 以前の動画で、自己破産を検討する際の一般的な留意点をご紹介したことがありました。

今回は、その中で更に、取締役や監査役など会社役員の方が自己破産を検討される際の留意事項について、役員ご本人/会社それぞれの視点からお伝えしたいと思います。

 

  ◆役員本人側の留意事項 →2.

  ◆会社側の留意事項   →3.

  ◆役員ご本人も、会社の方も、弁護士に相談を →4.

 

2 役員本人側の留意事項

 先に大きなポイントを申し上げると、会社役員(取締役、監査役等)の方が自己破産をすると、その役員を退任しなければなりません。ただし、改めて選任手続を経ることで、その役職に復帰することができます。

⑴ 役員を(いったん)退任しなければなりません

 会社役員が破産した場合の取扱いについては、実は民法に記載があります。

 

 民法

 第653条

  委任は、次に掲げる事由によって終了する。

   一 委任者又は受任者の死亡

   二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。

   三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

 

 

 会社と役員は、委任契約によって結ばれた関係にあります。委任契約は自己破産によって終了するため、役員はその職務を1度退任しなければなりません。

 なお、この条文でいう委任者は会社、受任者は取締役です。少し脱線しますが、条文から見てとれるとおり、会社側が破産した場合も役員は退任することになります。それから、役員は破産だけでなく後見開始の審判を受けた場合も退任することになります。

 

 もっとも、それ以外に役員が受けうる影響はなく、あとは一般の自己破産と同じです。つまり、役員にとって、自己破産をしたことや、そのため役員を退任しなければならないことが引き金となって、何らか責任を負わなければならないということにはなりません。

 

 ただし、自己破産に至ったにも関わらず、そのことを会社に申告しなかった場合、委任契約違反等ということになり、これによって会社に損害が生じた場合は、賠償責任を問われる可能性もありますので、ご注意ください。

 

⑵ 再度選任されれば、役職に復帰することができます

 自己破産によって1度退任した場合でも、会社から再度選任されれば、その役職に復帰することができます。しかも、破産法上の資格停止ではなく単に委任契約が切れるだけですから、破産手続中でも選任手続を経て再選を受けることが可能です。

 その場合は、破産した役員を除く取締役にて株主総会を招集し、取締役の選任決議を経る必要があります。

 

⑶ 代表取締役の破産

 代表取締役個人が自己破産をする場合は、より一層注意が必要です。

 代表取締役が破産をする場合、上述と同様、1度会社役員を退任しなければなりませんが、その他には会社にただちに影響があるわけではありません。代表者個人の資産と会社の資産はあくまで別人の名義ですから、会社の資産が没収されるということもありません。

 というのが法律の考え方ですが、実務上は、代表取締役の破産と会社の破産が連動してしまうケースが多いです。というのも、代表取締役は、通常会社の借入債務を保証していることがほとんどですので、代表取締役の破産原因がその保証債務を払えないことにあるのであれば、主債務者である会社も債務超過を起こしていると伺われるため、会社も破産すべきケースということになるわけです。

 また、代表取締役が会社に対し、個人資産を貸し付けていた場合で、会社がこれをただちに返済できない場合も、会社が破産を検討すべきケースになろうかと思います。

 

⑷ 役員が保有していた株はどうなる?

  破産者が株式を保有していて、ある程度の価値が見込まれる場合は、破産手続の中で換価対象(債権者に配当するために、お金に換えること。)になりえ、事案によっては破産管財人が売却処分する可能性があります。

⑸ 役員賠償責任保険はどうなる?

  保険約款の規程に従うことになりますが、一般的には、破産者である役員の被保険者としての地位が破産管財人に引き継がれることになり、保険契約そのものが直ちに解除されることにはなりません。

  以上のとおり、役員の方が破産する場合、会社との委任契約が終了し、その後会社に実施してもらわなければならない手続も複数存在します。そのため、役員の方は、自己破産を検討する際に、会社にも相談をすることがマストだということになります。

3 会社側の留意事項

 会社側も、役員との委任契約が終了する関係上、関連法規や定款に従い、以下の手続を取る必要があります。

⑴ 退任登記の手続

 会社の多くは、役員が就任・退任・辞任したときは、その旨を登記しなければなりません。そのため、役員が破産し、委任契約が終了すると、これに伴い退任登記の手続を行わなければなりません(会社法915条)。

 なお、登記の申請期限は、役員が破産手続開始決定を受けたときから2週間以内です。この期限内に申請しなかった場合、登記申請自体は受け付けてもらえますが、登記を怠ったことで100万円以下の過料に課される可能性がありますので、早めに準備しておくのが望ましいです。

⑵ 役員の補充または再選の手続

 会社法では、会社の組織構造によって、最低限必要となる役員の人数が定められています。

 例えば、株式会社では最低1名の取締役が必要であり、さらに取締役会設置会社では最低3名の取締役が必要となります。

 

 役員が破産し退任したことによってこの最低必要数を下回る場合、会社は直ちに役員を補充するべく、選任手続を行わなければなりません。具体的には、破産した役員以外の取締役が株主総会を召集し、取締役の選任手続を経ることになります。

 なお、破産した役員を再選できること、再選のタイミングは破産手続が継続している間でも構わないことは、役員側の留意事項の中で述べたとおりです。

 

 そして退任登記と同様、選任から2週間以内に就任登記をする必要があります。

 

⑶ その他の留意事項(役員が信用情報に載ることによる影響)

 役員が破産すると、一般的な個人破産と同様に、金融機関等が加盟する信用情報機関(KSC、JICC、CIC等)に、破産に関する事故情報(いわゆるブラックリスト)が登録されることになります。

 金融機関では、例えば会社に融資を行うかどうかを検討する際、役員の属性についても判断要素とする場合があります。つまり、役員の信用情報から破産歴があると分かると、融資が慎重になったり、条件が厳しくなったりする可能性があります。

 特に代表取締役は、会社が借入れをする際に、必ずと言ってよいほど保証人になることが求められるため、経営状態が良くない場合の借入れはほとんど難しくなると思います。

 なお、金融機関以外の一般の取引先との関係においては、信用情報があるわけではないので、基本的には問題ないものと思います。ただし、その役員が破産手続を受けていることは官報(誰でも取得・閲覧が可能)に載るので、完全に知られないように進めていける、というわけではありません。

 

4 役員ご本人も、会社の方も、弁護士に相談を

 以上のとおり、役員個人が自己破産をする場合の留意点について、役員本人側・会社側それぞれの視点からお伝えしてきました。

 役員ご本人が債務超過に陥ったとき、破産を進めるべきか、他の手続(任意整理、個人再生など)を選び取るべきかは、その方の意向や、会社の規模感などによっても異なってきます。

 破産の申立てをする前に、お早めに弁護士にご相談いただくことで、その方にとってベストな手段を一緒に選択していけるものと思います。また、いざ破産手続を選択するにしても、会社にはいつ・何を・どこまで説明しておくべきか、きちんと段取りを組み立ててアドバイスすることもできるかと思います。

 

 一方、会社サイドでも、役員が破産に至りそうな場合は、是非弁護士にご相談ください。先ほどご説明したとおり、登記手続や補充役員の選任など、会社として喫緊で対応しなければならない事は多いです。バタバタしながら、登記申請書や添付資料、また選任までに必要な招集通知や議事録などの作成を、ほとんど並行して作成しなければならない場合もあります。このような場合に、お早めに弁護士にご相談いただくことで、落ち着いて段取りを整理し、また各書類を代行して作成することが可能となります。

 特に弊所では、司法書士の先生をご紹介することもできますので、その先生とも連携をとりながら、登記申請自体を代理で行うことも可能です。

 

 今回もご覧いただきありがとうございました。

 

著者紹介

昭和62年4月13日生
鹿児島県鹿児島市出身
福岡県弁護士会所属

経歴
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
趣味
音楽鑑賞・演奏,映画鑑賞,旅行,読書,囲碁