自己破産と賃貸住宅

Q. 消費者金融などからの借金が増えてきて、私の名義で借りて住んでいる賃貸マンションの家賃も滞納しています。私が自己破産をすると、賃貸マンションを退去しないといけないのでしょうか?

 

A. ”賃借人が自己破産をすれば賃貸人が解除できる”という特約が賃貸借契約にあっても、借主が自己破産をしたことを理由として賃貸住宅から退去する必要はありません。しかし、貸主は、”借主が賃料を支払わないこと”を理由に、賃貸借契約を解除することはできます。よって、賃料を滞納していると賃貸住宅から退去しなければならない場合があります。

賃貸住宅の借主が免責許可決定を受けると、原則として破産手続開始決定前に滞納していた賃料を支払う義務はなくなります。しかし、破産手続開始決定後の賃料については、免責許可決定を受けても支払う義務はなくなりませんから、賃貸借契約を継続して賃貸住宅に住み続けるには支払う必要があります。

どれほどの家賃の滞納を理由として貸主が賃貸借契約を解除できるかどうかについては、事案ごとに専門的な判断が必要となります。

自己破産は債務者の経済的更生を図る制度ですから、自己破産をした後の収入・支出の見直しも重要となります。自己破産をしても賃貸借契約を継続できるかどうかや自己破産後の収入・支出の見直しについては、弁護士にご相談ください。

 

1.「賃貸借契約」とは

 貸家や賃貸マンションなどの「賃貸借契約」は、貸主が借主に住宅等の使用・収益をさせ、借主が貸主に賃料を支払う契約です。

 かつては、賃貸住宅の借主が自己破産をすると、貸主は賃貸借契約を解除できるとされていたので、借主は賃貸住宅から退去しなければならない場合がありました。

 しかし、住宅は借主の生活や営業の基盤であることから法律が改正され、2005年から、借主が自己破産をしても、貸主は賃貸借契約を解除することはできなくなりました。

 したがって、賃借人が「己破産をすれば賃貸人が解除できるという特約が賃貸借契約にあっても、解除は無効といえますから、借主が自己破産をしたことを理由として賃貸住宅から退去する必要はありません。

 しかし、貸主は、借主が賃料を支払わないことを理由に賃貸借契約を解除することができますから、借主が賃料を滞納していると、賃貸住宅から退去しなければならない場合があります。

2.未払賃料と破産手続開始決定

 自己破産をする場合、住宅などの賃料が未払いとなっていることが多いといえます。賃料の取扱いは、通常の破産手続か否か、破産手続開始決定前に生じていたか否かで異なります。

(1)通常の破産手続

 破産手続を申し立てた人に一定の財産がある場合、破産手続で財産をお金に換える通常の破産手続を行うため、裁判所が「破産管財人」を選任します。

 賃貸住宅の借主が自己破産をした場合、賃貸借契約の解除・継続は、破産管財人が選択します。

 破産管財人が賃貸借契約の継続を選択すると、破産手続開始決定”前”の未払賃料は、破産手続により配当として支払われます。そして、破産をした人が免責許可決定を受けると、この配当以外に未払賃料を支払う必要はありません。

 これに対し、破産手続開始決定”後”の賃料は破産手続によらないで支払うことになります。

(2)「同時廃止」

 破産手続を申し立てた人の財産が少ない場合、破産手続開始決定と同時に財産をお金に換える手続が終了する「同時廃止」となり、破産管財人は選任されません。

 この場合、破産手続が終了することにより債権者は弁済を受けることができるようになるため、賃貸住宅の貸主は借主に未払賃料の全額を請求できることになります。しかし、破産をした人は、「免責許可決定」を受けると、未払賃料を支払う必要はありません。

 そして、破産手続開始決定後の賃料は破産手続によらないで支払うことになるのは、通常の破産手続と同様です。

※「同時廃止」の詳細ページはこちら

3.未払賃料と免責

 破産をした人が免責許可決定を受けると、原則として、破産手続開始決定前に生じた債務を支払う義務がなくなります。

 しかし、破産手続開始決定後の賃料については、免責許可決定を受けても支払う義務はなくなりません。この賃料を借主が支払うことができなければ、貸主は賃貸借契約を解除することができる場合があります。

 こうしたことから、通常の破産手続による場合も同時廃止の場合も、借主が賃貸借契約を継続して賃貸住宅に住み続けるには、賃料を支払う必要があります。

 どれほどの家賃の滞納を理由として貸主が賃貸借契約を解除できるかどうかについては、事案ごとに専門的な判断が必要となります。

 賃貸住宅の場合、自己破産をしても住む場所を失うおそれは住宅ローンに比べて低いといえますが、賃料を支払う見込みがなければ、住む場所を失うことになりかねません。

 自己破産は債務者の経済的更生を図る制度ですから、新たなスタートのために収入・支出の見直しも重要となります。

 当事務所は、経済的な再出発をお手伝いして参りますのでお気軽にご相談ください。