1 はじめに
今回は「デジタル時代の借金リスク」というテーマでお話させていただきます。
現代社会は、スマホ一つで何でもできる便利な時代ですが、同時に、お金との付き合い方も大きく変化しているように思います。特に最近、多重債務の法律相談をお聞きしていると、「後払い式のスマホ決済を重ねて・・」とか、「投資アプリで損して・・」など、借金が増えた経緯として、デジタル時代だからこその内容をお聞きすることがよくあります。
そこで今回は、法律的な解説というよりも、私が多重債務に関する法律相談を受けてきた中で実際にお聞きしたこと等もふまえ、“デジタル化によって巧妙化する借金のリスク”について、お話したいと思います。

2 デジタル時代の借金リスク
⑴ スマホ決済の利便性と危険性
まず、皆さんもよく利用されるであろうスマホ決済。
現金を持ち歩かなくても買い物ができるのは非常に便利ですよね。ですが、その手軽さが、お金を使っている感覚を鈍らせ、使いすぎにつながる危険性も孕んでいます。特に、クレジットカードと連携している場合、利用限度額まで簡単に使ってしまう可能性がありますし、実際に「“気づいたら”限度額まで行っていた」とおっしゃる方もままいらっしゃいます。

⑵ 後払いサービスの落とし穴:借金という認識の薄さ
次に、最近増えている「後払いサービス」。
購入時にすぐにお金を払わなくても良いので、ついつい利用してしまいそうになりますが、これも一種の借金です。この「後で払えばいい」という感覚が、収入以上の支出を生む原因となっています。
また、“後払い”に加え、分割払いやリボ払いを重ねると、利息や手数料がかさみ、気づけば返済総額が大きく膨らんでしまうこともあります。こういったサービスの利用が重なり、数百万円の債務を抱えてしまったというケースが、法律相談の中でも本当に増えています。

⑶ サブスクリプションの累積債務問題:塵も積もれば山となる
さらに、音楽配信や動画視聴など、様々なサブスクリプションサービスも要注意です。
月額料金は少額でも、複数のサービスを契約していると、毎月固定の出費が積み重なり、家計を圧迫する原因となります。

⑷ 仮想通貨投資による借金
近年、仮想通貨投資に挑戦する人が増えていますが、価格変動が激しく、大きな損失を被るリスクがあります。特に、レバレッジ取引(少額証拠金を担保に、大きな金額の取引を行う仕組み。)を利用すると、自己資金以上の損失を抱え、自己破産に至るケースも少なくありません。

⑸ SNSが引き起こす新型借金トラブル
SNSの普及は、新たな形の借金トラブルも生み出しています。例えば、法律相談の中では、以下のような話がよく出てきます。
① SNSでの投資・副業勧誘詐欺
「必ず儲かる」といった甘い言葉で、仮想通貨やFX取引、もしくは副業講習に誘い込み、高額な情報商材を売りつけたり、投資資金を騙し取ったりする詐欺が横行しています。
② オンラインカジノやFX取引の誘惑
知識がなくても手軽に始められるとか、簡単に儲かるとか、そういった誘い文句でオンラインカジノやFX取引の広告が出てきますが、要注意です。そもそもオンラインカジノの違法性については、ニュース等で取り上げられているとおりですし、入口が広い分、簡単にのめりこみやすく、ギャンブル依存や大きな損失に陥るリスクがあります。
③ SNSでの借金相談の危険性
困った時に、SNSで安易に借金相談をすると、個人情報を悪用されたり、闇金業者に繋がれたりする危険性があります。



3 もし、返済が困難になったら:自己破産という選択肢
便利なデジタルサービスには必ずリスクが伴うものだと思っていてください。
少しでも不安を感じたら、早めに専門家に相談されることをお勧めします。
そしてもし、様々な要因で借金が膨らみ、返済が困難になってしまった場合、自己破産という選択肢を検討することになるかと思います。
自己破産の手続は複雑で、専門的な知識が必要です。
さらに今回ご紹介したように、スマホ決済や仮想通貨投資など、目に見えにくいお金の動きが散見されるようなケースでは、破産申立てのために必要となる資料を収集すること自体が、複雑困難となる場合がほとんどです。
弁護士に相談することで、個々の状況に合わせた適切なアドバイスを受けながら、破産の準備を進めていくことができます。また、債権者の連絡・調査や、裁判所への申立手続も、弁護士が代理人として行うため、精神的な負担も軽減されるかと思います。
4 おわりに:デジタルツールを活用し、借金から身を守りましょう
以上、これまで法律相談を受けてきた中で、実際にお聞きしたこと等もふまえ、デジタル時代の借金リスクについてお話をしました。
締めくくるにあたり、1つご提案するとすれば、「デジタル時代における借金リスクからは、デジタルツールを活かして身を守りましょう」ということです。
最近では、アプリや生成AIなどを利用することで、デジタル家計簿を簡単に作れるようになっています。最近では、スマホ決済の明細や、レシート等でも写真を撮れば、これらを自動的に取り込み、整理できるようになってきました。
目に見えないお金が動くからこそ、その収支をしっかり可視化し、できるだけリアルタイムで、後払い等も含めた総額の支出入を把握されることをお勧めいたします。
その延長として、不要なサブスクリプション等の固定費を見直す機会にもなるかと思います。また、その先 万が一自己破産に至ったとしても、家計簿等として残っていると、相談先の弁護士や裁判所にも説明がしやすくなる、というメリットもあります。
それから、SNSでの素性不明な相手との間で金銭的なやりとりをすることは、基本的にタブーだと思っていてください。
デジタルツールは、使い方次第で生活を豊かにする便利なものですが、借金のリスクも孕んでいます。日頃から、じょうずに活用いただいて、お金の流れを把握し、計画的な利用を心がけられるのが、自己破産を回避する第一歩かなと思います。
もちろん、借金問題で悩んでいる場合は、一人で悩まず、早めに専門家にご相談ください。
今回もご覧いただきありがとうございました。
著者紹介

井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属