1 はじめに
本日は、破産手続に関し、「同時廃止事件・破産管財事件の振分基準」についてお話したいと思います。
破産手続は、開始決定と同時に破産管財人を選任することが法律上の原則となっています。
破産管財人の仕事については奥田弁護士が動画の中で説明しておりますので、よろしければそちら(「自己破産の破産管財人について」https://www.youtube.com/watch?v=7TxAipZNvWM)をご覧ください。
ところで、破産手続の費用を支払う余力すらないと認められるときは、開始決定と同時に廃止決定とする、「同時廃止」に至る場合があります。その場合は、破産管財人が選任されず、通常であれば予定されている換価や配当の手続も行われません。
(これに対して、原則通り破産管財人が選任され、進行していく事件を「破産管財事件」といいます。)。
今回は、「同時廃止事件」と「破産管財事件」の振分基準、つまり、どのような場合に「同時廃止」となるのか、という点についてご説明いたします。
2 振分基準は、全国共通ではありません
先ほど、同時廃止事件になるか、破産管財事件になるかは、破産手続の費用を支払う余力すらないと認められるかどうかが基準になると述べました。
では、具体的に、どのような基準で(たとえば、どのような財産をどれくらい持っていた場合に)破産管財事件になるのでしょうか。
実は、この振分基準というものは、現時点では全国の裁判所で統一されているものではなく、それぞれの裁判所ごとに一定の運用基準が採用されており、必要に応じて見直されることもあります。(全国的に運用を一致させていく方向での見直しも、検討されているところです。)
これからお話するのは、当事務所が在籍している福岡での基準、ということになります。
その他の都道府県や地域の基準については、お近くの弁護士に相談されるとよいかと思います。
3 福岡の振分基準
⑴ 財産の価額
ア まず、破産手続開始決定時において債務者が有する、以下の①~⑦の財産の項目ごとの合計額のいずれかが20万円以上である場合は、原則通り管財事件となります。
① 預貯金・代理人弁護士の預け金
② 保険契約の解約返戻金
③ 居住用家屋以外の敷金等返還請求権
④ 退職金債権の8分の1
⑤ 自動車
⑥ 家財道具その他の動産
⑦ 債権、有価証券その他の財産権
イ また、債務者が有する現金と、上記の①(預貯金と、代理人弁護士への預け金)の合計額が一定額(標準世帯の生活費月額33万円が参考とされています)を超える場合も、原則通り管財事件となります。
⑵ 事件の類型
以下の類型に該当する破産事件は、その類型的に、破産手続を申し立てる時点では「破産手続の費用を支払う余力すらない」と認めることが難しいため、原則通り管財事件となります。
① 法人代表者・個人事業者(過去に法人代表者・個人事業者であった場合も含む。)
② 債務者が不動産を所有している場合
③ 債務者の資産状況(資産の存否・価額や、その取得・処分の経緯等)や負債増大の経緯等が明らかでない場合
④ 否認権行使の対象となる行為が存在する可能性のある場合
⑤ 免責不許可事由の有無や、裁量免責の可否について、調査を要する場合
※免責不許可事由の有無については、よろしければこちらの動画をご参照ください(「自己破産が認められないケース『免責不許可事由』」https://www.youtube.com/watch?v=QPSyeLmIcEw&t=230s)。
4 まとめ
以上、同時廃止事件と破産管財事件の振分基準についてお話いたしました。
ただ、運用上はあくまで原則:破産管財事件、例外:同時廃止事件という関係が前提となるのを忘れてはいけませんし、実際にどのように振り分けられるかは、個々の事案によって様々であり、最終的には裁判所の判断に委ねられるところです。
ひとまず、どんなケースでも、破産を申し立てるにあたり やるべきこと、やってはいけないこと、やってよいことがありますので、ご相談にお越し頂いた際は、そのあたりをご説明したうえで、一緒に破産の準備を粛々とやっていく、ということになるかと思います。
著者紹介
井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属