債務整理の選択方法

債務整理において取りうる手段

法的な債務整理は、大別すると3つ、①任意整理、②自己破産、③個人再生に分けることができます。本記事では、それぞれの手続きを選択するうえで、どのようなメリットデメリットがあるのか、どのような視点から手続きを選択すべきかを説明いたします。

なお、信用情報に事故情報として登録されうること(いわゆるブラックリストに入ること)については、①から③のいずれについても該当しますので、その点は共通するデメリットとしてお考え下さい。

任意整理

任意整理とは、債務者と債権者(借りた人と貸した人)との間で交渉を行い、合意によって行う方法です。

 任意整理を行う大きなメリットは、特定の債権者だけの間で債務整理を行うことが可能であるという点です。自己破産や個人再生は制度的に債務を消滅させる、あるいは圧縮するという強い力を持ちますが、一方で特定の債権者との間でだけ行うということはできません。

具体的には、親戚や友達等に多額の借金があるような場合、破産や個人再生ですと、それら(親戚等から借りた債務)も免除あるいは圧縮せざるを得ませんが、一方で任意整理ですと、親戚等からの借金があり、今後の関係のために債務整理をしたくない場合でも、カード会社等の債務だけ債務整理することができます。

 

一方で、任意整理は法律上の制度による債務整理ではなく、任意での交渉ですので、それゆえの限界もあります。金融機関にもよりけりですが、どれだけ頑張っても元本の額までしか圧縮できず(=利息を除いた元本額は支払わなければならない)、債権者側が拒否する場合には1円も圧縮できないということもありえます。また、支払えることが前提の交渉となりますので、そもそも支払うだけの収入や資産がない場合にも難しい選択肢になります。

自己破産

自己破産は法律上の制度であり、裁判所に申立を行って、免責決定、すなわち債務を免除する決定を出してもらう制度になります。

 自己破産は債務を免除する制度ですから、一部の例外を除いては、借金がゼロになるという点が他の方法と比較して大きなメリットになります。特に収入が厳しい場合、圧縮されるにせよ支払いが残る任意整理や個人再生では解決できない場合もありますので、借金をゼロにできるのは大きな意義があります。

 自己破産のデメリットとしては、任意整理で述べた特定の債権者を手続きから外すことはできないことや、弁護士等の特定の職業につけなくなるということのほか、99万円以下の現金等一定の範囲を除いて、家や車を含めた財産を手放さなければならないという大きなデメリットがあります。例えば債務整理後、仕事を続けていくうえで手放せない財産があるような場合には、破産という選択肢を取ることは困難です。

個人再生手続

 個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の二つがありますが、小規模個人再生が多数を占めるのが現状ですので、本記事では小規模個人再生に絞ります。

個人再生も破産と同様に裁判所を利用する手続きになりますが、破産との違いは100万円あるいは債務の5分の1のうち、大きい方までしか圧縮できないという点です。支払いが残るので、破産と比べた場合のデメリットになります。

破産と比較した場合、あえて支払いの残る個人再生を選択すべき場合としては、破産では残せない財産(債務整理後の事業の継続に必要な財産等)を処分したくない場合があげられます。個人再生も破産同様に原則として特定の債権者を外すことはできませんが、特例として家のローンについては、圧縮せずにそのまま支払い続ける形で、持ち家を残しつつ他の債務についてのみ圧縮するという違いもあります。

もっとも、財産を手放すことを代償に債務を免除する破産との平等を図るため、処分しない財産分を支払総額が下回ることはできないということになっており、手元に家や車などの財産を残しつつ、債務を財産以下に圧縮することはできません(清算価値保障原則)。例えば、300万円の車を処分せずに個人再生手続きを進める場合、300万円を下回る形で債務を圧縮することはできません。

債務整理の選択するに当たって考える事項

 債務整理の手段を検討するに当たっては以上のメリットデメリット、すなわち債務整理によって縮減される額、債権者との関係性及び支払うべき債務の額が増えてでも手元に残しておきたい財産の有無等を主に検討していくことになります。

 以上のほかにも留意すべき点もございますので、債務整理を行う際にはまず弁護士に相談いただければと思いますが、相談する前に債務整理としてどのような手段があるのか、それぞれどのようなメリットデメリットがあるのかについて知りたい方の一助になりますと幸いです。

 

著者紹介

弁護士 田中大地

福岡県立修猷館高等学校卒

九州大学法学部卒

九州大学法科大学院修了

司法修習74期

福岡県弁護士会所属