自己破産が認められないケース「免責不許可事由」

1 はじめに

 本日は、「自己破産が認められないケース」、法律用語でいうと「免責不許可事由」についてお話したいと思います。

 破産手続は、債務者に経済生活の再生の機会を与えることを目的の1つとしているものですが、自己破産が認められないケースがあるのをご存知でしょうか。

 

 このテーマについて、これから10分程お話することになるかと思いますが、もっと簡単に概要をお知りになりたい方は、奥田弁護士の動画もございますので、そちら(「自己破産が認められない場合」https://www.youtube.com/watch?v=EcQ7CI1-Xpo)をご確認ください。

 

2 免責許可決定の位置づけ

先に、破産手続上の、免責許可決定の位置づけについて見てみましょう。

 

 破産手続は、

  債務者が申立てを行い(開始申立て)、

  裁判所から開始決定を受けた後(開始決定)、

  債務者の財産を調査し、お金に換えて(調査・換価)、

  各債権者に公平に分配し(配当)、

  裁判所が債務者の支払義務を免除する(免責許可決定

という流れを辿ります。

 

 上記のとおり、破産手続開始申立てをしたり、「同時廃止」(簡単に言うと、債務者に見るべき財産がないため、換価や配当の手続を実施しないこと)による破産手続開始決定を受けただけで、直ちに債務の支払義務が消えるわけではありません。

 裁判所から免責許可決定を受け、その決定に一定期間誰からも不服が出なかった場合に はじめて、債務者はその支払義務から免れることができるわけです。

 

3 免責許可における2つの“ふるい”

 破産法は、免責許可について2つの“ふるい”を提示しています。

 

 1)後程ご紹介する、法律上定められた11項目のケース(免責不許可事由)に該当しない限り、免責が許される。

 

 2)仮に11項目のいずれかに該当する場合でも、一切の事情を考慮して免責を許可することが相当といえる場合は、免責が許される。(裁量免責)

 

 以上のとおり、破産法は、免責が許される道を広げて広げて、可能な限り債務者が再出発する余地を残すような構成をとっています。

 

4 免責不許可事由(免責が許されない11項目)

① 不当な財団価値減少行為

債権者を害する目的で、債権者へ配当されるべき財産を隠したり、壊したり、誰かに安く売却したり、無償で譲ったりすること。

② 不当な債務負担行為・不利益な処分行為

破産手続の開始を遅らせる目的で、わざと借金をしたり、クレジットカード等の信用取引で購入した商品を安く処分すること。

③ 不当な偏頗(へんぱ)行為

特定の債権者に特別の利益を与え、又は他の債権者を害する目的で、特定の債権者に対して弁済や担保提供などをすること。

特定の債権者に優先して借金を返済するなど、債権者を平等に扱わないような行為をさします。

 

④ 浪費または賭博その他の射幸行為

   「浪費」とは、破産者の職業、収入や財産状態とは不釣り合いの支出をすることをいいます。

   「賭博その他の射幸行為」には、競馬、パチンコなどのギャンブルのほか、ブランド物の買い物、キャバクラ・ホストクラブでの豪遊、それから先物取引やFX取引などの投機的取引も含まれます。

   ただし、これらの行為と過大な債務負担との間に因果関係がない場合(たとえば競馬には何度も行っているものの基本的に勝ち越しており、債務超過の原因は他にあるケース等)は、不許可事由には該当しないことになります。

 

⑤ 詐術による信用取引

   借金を完済できないと知りつつ、氏名等や負債額・信用状態等について相手をだまして信用させて借入れ等をすること。

⑥ 業務帳簿隠滅等の行為

   仕事の業務や財産に関する書類の偽造や隠ぺいをすること。

⑦ 虚偽の債権者名簿提出行為

   破産手続の中で裁判所に提出することになっている「債権者名簿」に、わざと、架空の債権者の名前を記載したり、載せるべき債権者の情報を記入しなかったりすること。

⑧ 調査協力義務違反行為

   裁判所書記官や破産管財人が行う調査について、説明を拒んだり、虚偽の説明をすること。 

⑨ 管財業務妨害行為

   破産管財人等の業務を妨害すること。

   破産管財人の業務とは、たとえば破産者との面談や、破産者の財産の現金化(換価)、免責調査(まさに今回のテーマである免責不許可事由の存否を調査するのも、管財人のお仕事です。)、債権者集会での説明等がこれにあたります。

 

⑩ 7年以内の免責取得など

   過去7年間に自己破産や給与所得者等再生(個人再生の一種)を行っていること。

 

⑪ 破産法上の義務違反行為

   破産者には、

   ・破産に関して事情等を説明する義務

   ・重要な財産に関する情報を開示する義務

   ・破産管財人への調査協力義務

   などの義務があります。

   破産者がこれらの義務に違反し、財産隠匿、虚偽発言をするなど破産手続に非協力的な場合は、これに該当し得ることになります。

 

5 11項目(上記①~⑪)のいずれかに該当する場合  大きく2つの点に影響があります。

 ⑴ 第2の“ふるい”にかけられる

   まず、免責が許されるかどうかという関係では、上記3のとおり、第2の“ふるい”にかけられることになります。つまり、「‥とはいえ免責を許すことが相当な事情は無いか?」ということが検討されるわけです。

   なお、第2の“ふるい”にさえ救われなかった、つまり、免責を許されなかったケースは、2012~2018年の大阪地裁のケース調査だと、毎年0.1%にとどまっています。大阪地裁の場合ではありますが、免責不許可となる割合は非常に少ないということ自体は、福岡、ひいては全国でも同様かと思います。

 

 ⑵ 破産管財人の選任について

   次に、特に個人破産の場合は債務者の方にとって大きな影響となるのですが、破産手続開始決定の際に、免責不許可事由に該当する疑いがある場合は、破産管財人が選任される可能性があります。

   どういうことかというと、破産者の免責を許すかどうか、最終的に決定を行うのは裁判所ですが、免責不許可事由・裁量免責に関する事情を調査する(つまり、第1・第2の“ふるい”に落とし込む事情について調査する)のは破産管財人です。したがって、免責不許可事由に該当する疑いがある場合は、そこを調査するために管財人が選任されるわけです。

   そうすると、債務者は、管財人の費用として別途、最低でも20万円(債権者数によって変動します)を破産手続開始決定前に準備しなければなりません。

   法人破産の場合は、いずれにせよ財産調査のために管財人が選任されるのですが、個人破産の場合は、管財人が選任されずに終わるケースもある中で、このような費用を別途負担するかどうかの重要な分かれ目となってくるのです。

 

6 おわりに

以上、免責不許可事由についてお話しました。

  弁護士は、破産に関する法律相談を受けるとき、よくこの免責不許可事由に関わる質問もします(借金の理由は?ギャンブルはしていましたか?過去に破産したことはありますか?等)。それは、このケースで管財人がつく可能性があるかどうか、そして先を見たときに、結局破産できなかった(免責許可を受けられなかった)ということにならないかどうかを、スタートの段階から慎重に、丁寧に、見極めているからです。

  

  これから、債務整理や破産について弁護士に相談するという方がいらっしゃれば、これらの“ふるい”を念頭に置いていただいて、上記①~⑪のケースに当てはまるかどうかという点を、ひとつのポイントとしてお話いただければよいのかなと思います。また、今後の生活において、①~⑪に該当してしまうことのないようにという趣旨で、一種の指標にしていただければよいかと思います。

 

著者紹介

井上瑛子 弁護士

おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属