1 はじめに
今回の動画では、「支払督促が届いた場合の対処法」について、次のような流れでお話したいと思います。
◆ 支払督促とは
・ 支払督促とは
・ どんな手続?訴訟(裁判)とはどう違うの?
◆ 支払督促が届いた場合の対処法
・ 支払督促はどのように届くの?
・ 放っておくとどうなる?
・ 督促異議の申立てとは
・ 督促異議の申立てを特に検討すべきケース
・ 対応が必要な場合、どうすれば?
もしお手元に、裁判所から「支払督促」が届いたときは、必ず目を通して、今後の対応について検討するようにされてください。そのとき、この動画が参考になればと思います。
2 支払督促とは
⑴ 支払督促とは
支払督促の大きな特徴は、略式的な手続であること、つまり、
・裁判官ではなく裁判所書記官(×裁判官)が、
・債権者の提出した書類審査のみで、債務者の言い分を聞かず、
・金銭等の支払を命じる、という制度です。
そして、
・「支払督促」の発付後、債務者から何のアクションもなければ、訴訟による判決と同様の効力が生じる(=強制執行が可能になる)
という点にあります。
これに対して、訴訟(裁判)手続は、裁判官が、法廷で双方の主張を聴いたり証拠を調べた上で判決を出す手続です。
このように、支払督促は、訴訟に比べると、極めて簡略化・迅速化されているのに、訴訟の判決と同様の効力が得られる、という特殊な手続です。
ただし、支払督促を利用できるのは、金銭等の支払に関する紛争(貸したお金を返せ、代金を支払え、など)に限られます。基本的にこれらの紛争が、他に比べ、精査するべき争点が、金額や支払時期、契約の有無といったポイントに限られているからです。
他方、これ以外の紛争、たとえば交通事故による損害賠償請求事件では、損害額を認定するにあたり、事故態様、被害状況、過失割合などの各争点を精査していかなければならないため、簡略化・迅速化に特化した支払督促は馴染まない、というわけです。
また、支払督促には、債務者側に反論の余地を与えるべく、「督促異議の申立て」という制度が用意されています。この場合、その事案は通常の訴訟手続(裁判官が、法廷で双方の主張を聴いたり証拠を調べた上で判決を出す手続)へ移行することになります。
もっとも、期限内に債務者から督促異議の申立てが出されなかった場合は、最初にお話したとおり、訴訟による判決と同様の効力が生じることになります。
支払督促と訴訟の両方を申し立てられる場合、どちらを申し立てるかは、債権者の自由です。なお、支払督促手続の場合、裁判所に納める手数料は訴訟の半分ですので、コストの面で支払督促を選ぶ債権者も多いのだと思います。
3 支払督促が届いた場合の対処法
⑴ 支払督促はどのように届くの?
支払督促は、「特別送達」という特別な方法で郵送されます。
具体的には、以下のとおりです。
・差出人は裁判所。「特別送達」と記載された封書で送付されます。
・ポスト投函ではなく、名宛人への手渡しが原則(例外的に、同居人や同じ職場の方など。)
・受け取った人は、署名または押印が求められます。
<偽物/架空請求に注意>
なお、本物の支払督促には、「事件番号」や「事件名」の記載があります。
一方、本物の支払督促には、金銭の振込先口座が記載されることはありません。裁判所から「お金を振り込むように」という連絡が来ることはありませんから、そのような記載がある場合は絶対に振り込むことのないよう注意してくださいね。
⑵ 放っておくとどうなる?
先ほどお話したとおり、支払督促は、債務者から何のアクションもなければ、訴訟による判決と同様の効力をもつ(=強制執行が可能になる)ことになります。
そして、債務者がアクションできる期間は、「支払督促」の送達を受けてから2週間以内と短いのです。
そのため、支払督促が手元に届いた場合、名宛人は必ずすぐに開封して、内容を確認するようにしてください。
そして、身に覚えのないことが書かれていた場合や、事実に食い違いがある場合などは、直ちに「督促異議の申立て」を行うかどうか、検討するようにしてください。2週間は本当にあっという間です。
⑶ 督促異議の申立てとは
督促異議の申立てとは、届いた支払督促に対して異議を申し立てるものです。
督促異議を申し立てると、通常の訴訟手続に移行します。先ほどお話した通り、訴訟は、裁判官が、法廷で双方の主張を聴いたり証拠を調べた上で判決を出す手続です。それが必ず債務者の有利にはたらく、というわけではありませんが、きちんと事実関係を精査してもらえますし、ケースによっては分割払いなどの和解交渉を行うことも可能です。
⑷ 督促異議の申立てを特に検討するべきケース
支払督促に書かれている事実について、それが身に覚えのないことであったり、食い違いがある場合などは、「督促異議の申立て」を検討するようにしましょう。
また、支払督促で借金の返済を請求されているケースのうち、今すぐには支払えないけれども分割であれば支払うことができる場合や、最後に返済してから5年以上経過している場合も、必ず「異議申立て」を検討してください。
私が出張法律相談を受ける中で目立つのは、「消滅時効」の成立の余地がある支払督促です。
支払督促をよく見ると、実は時効が成立していて、適切に対応すれば支払わなくて済むケースが意外にも多いです。この適切な対応というのが、2週間以内の「督促異議の申立て」です。支払わなくてよかったものが、2週間を過ぎてしまうと、強制執行を受けるほどの強力な効果を持つようになります。
支払督促を受け取ってから2週間を過ぎているかどうかで、本当に、天と地ほどの違いを生みますから、十分に注意されてください。
⑸ 対応が必要な場合、どうすれば?
「督促異議の申立て」については、支払督促と同じ封書に、裁判所が案内書類を付けてくれているので、必ず目を通してください。「督促異議の申立書」の書式も入っています。簡単なチェック欄にチェックすれば完成するような書式ですので、ご自身で記入ができそうであれば、早めに作成し、裁判所の案内に従って提出するようにしてください。
こうすることによって、支払督促による突然の強制執行を防ぐことができます。
ただし、ここで終わりではありません。訴訟に移行することになりますので、訴訟準備が必要となります。
なお、消滅時効の成立があり得るケース(最後に返済してから5年以上経過しているケース)では、回答の仕方によっては「時効の完成猶予」「時効の更新」という、債権者に有利にはたらく事情と評価されない場合もありますから、念のため、弁護士に相談に行き、書き方を教えてもらうことをおすすめします。
4 おわりに
以上、今回の動画では、「支払督促が届いた場合の対処法」についてお話しました。
支払督促を持って飛び込み出張相談に来られる方は、「怖くて開けられなくて…」「見たけどどうしてよいか分からなくて…」と仰る方も多いです。
繰り返しになりますが、支払督促を受けた後どのように対応するかで、180度結論が変わることがあります。未開封のままでも、弁護士事務所にお持ち頂ければ、その場で一緒に開封して、内容を説明させていただくこともできますから、まずはそのような1歩からでも、必ず対応するようにしてください。
この動画が、なかなか対応に踏み出せない方の背中を少しでも押せたらと思っています。
著者紹介
昭和62年4月13日生
鹿児島県鹿児島市出身
福岡県弁護士会所属
―経歴―
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
―趣味―
音楽鑑賞・演奏,映画鑑賞,旅行,読書,囲碁